自分の人生が喜劇に思える瞬間

「もっとインパクトが欲しい」
広告屋時代、新築マンションのチラシ案をデベや販売会社に見せると、
よくこういう類の反応が返ってきました。
販売会社は特にそうですね。とにかく反響を取りたいから、
出来るだけ派手で目立つデザインやコピーを好みます。

新築マンションの資産価値というのは、立地が9割です。
駅から15分も歩いたり、埋め立てられて半世紀もたっていないような
ロケーションのマンションは、それこそ「ヘレンケラー」です。
つまり三重苦、四重苦。デメリットだらけ。
だからこそ、タレントでも起用しなければごまかせません。

そういうマンションでも、売主側はとにかく
「インパクト」のある広告を打ちたがります。困ったもの。
物件の特長を素直に表現すれば、誰も買いたくないようなマンションです。
それでも広告屋ですから、それなりの提案をします。

しかし、そういうマンションの広告表現は決まるまでによく揉めます。
ああでもない、こうでもない、と迷走するのです。
結局、ものすごくくだらない案が通ったりします。
当然、それでは集客できません。すると、怒られます。
「くだらない広告を作ったお前らのせいだ」

まあ、理不尽な話です。
新築マンションの販売・広告において、一番強いのは金を出す売主。
次は販売現場を仕切る販売会社。広告代理店はその下請け。
「士農工商代理店」という言い方があります。
代理店はもっとも下層の身分で、奴隷と同じ。

私が経営していた広告制作会社は、その奴隷の下請け。
最後に「お前が悪い」と言われるのは、そういう制作会社。
上手く集客できて販売が進めば、手柄は売主の担当者と
販売会社が持っていきます。褒められるのはせいぜい代理店まで。
制作会社は「ごくろうさん」程度です。

まあ、どの業界にもありがちなカースト構造です。
制作会社はいろいろな提案をさせられて、最後は切られる構図。
代わりのプロダクションはいくらでもありますから。
今はだいぶ少なくなったようですが。

困るのは、発注側でモノをいう売主担当者や販売会社が
「もっといい広告表現案がある」と常に考えていること。
こちらへの要求が無限に広がっていることでしょうか。
これが広告を作っていて、一番厄介なことです。

広告というのは、商品のメリットを表現することです。
ものすごくつまらない商品には、広告表現の限界があります。
なぜなら、広告といえども嘘は付けないからです。
「駅徒歩10分」が正解なのに「5分」とは絶対言えません
「10分」を「駅近」とも言えません。「便利」くらいはいいますが。

そういう制約があるからこそ、マンション広告は
「ポエム」に走らざるを得なくなるのです。
しかし「ポエム」で客が呼べるかと言うと、また別の問題。
ターゲットにも「ポエム好き」と「リアリスト」がいますから。

私は最近「ポエム」を書かなくなりました。
こういう仕事をしているので、オーダーがこなくなったのです。
まあ、依頼があればいくらでも書いて差し上げますが。
今の業界で、私ほど各マンションの市場価値を分かっている
コピーライターはいないはず。
だからこそ、オーダーに合わせてポエムをこしらえて差し上げられます。
まあ、それはいいとして(笑)。

昔、売主や販売会社の担当者とよく打合せをしました。不毛の時間。
ああいった場でいつも感じたことは
「こいつらは学生時代にまともに学問をしていないな」ということ。
なぜそう思うかと言うと、彼らがいつも「正解」を求めているから。

世の中に「正解」のある「問題」など、かなり限られています。
というのは、人間はこの宇宙のことを0.002%も分かっていないからです。
地球の中のことでさえ、多分2%も分かっていません。
例えば、気象のことが100%分かっていれば、天気予報は外れません。
人間の行動で決まる経済のことさえ分かっていません。
だから、ノーベル賞学者の説に従っても不況はやってきます。

はっきりいって「正解」があるのは「入学試験」レベルまでです。
いってみれば、この世界の非常に初歩的な知識でしかありません。
それ以上のことを、人間は基本的に分かっていないのです。
これは、少し真面目に学問に取り組めば、誰もが気付くこと。
要は、この世の中「分からないことだらけ」なのです。
人が大学の学部で学べる最強の「真実」はそこにある、と私は思います。

ところが、私立文系のようないい加減な学問を教える学部で、
合コンとサークルに明け暮れて4年間を過ごした方々は、
そのごく初歩的な「真実」、つまり「正解はない」ということさえ
気付かない内に卒業証書を手に世の中に蹴りだされます。

彼らは、自分が「勉強しなかった」というコンプレックスを持っています。
そういう人間ほど、あらゆる問題には答えがあると勘違いしています。
というか、この日本社会全体がそういう傾向にあります。
はっきりいって、それは大きな間違いです。

「正解のある問題を解く」ことがもっとも得意な方は、偏差値秀才。
東京大学を優秀な成績でご卒業になった方がこの類。
理系なら医師や研究者になります。それはまあいいでしょう。
その道でせいぜい励んで人の役に立って欲しいと思います。
困るのは文系の偏差値秀才族。

彼らの最高峰は、高級官僚になることです。
東大法学部を卒業して財務省その他に入っているような方々。
彼らもまた、世の中のたいていの問題には「正解」があり、
自分たちはそれを見つけ出すことができる、と信じています。
彼らはそれなりに学問したはずですが、元が傲慢なタイプなので
「もう少し勉強すれば正解に行きついたはず」と思いながら卒業。
あるいは、自分が大学に残ればきっと正解に行きつく、と考えています。
これが実に困った問題ですね。

例えば、彼らの発想に従うと、
消費税率を上げれば税収が増えて財政赤字解消に役立つ・・・
確かに、机上の計算ではそうなります。
でも、その結果経済が委縮すればその他の税収が減少するので
政府の歳入自体が減ってしまう、という平凡な真実に気付きません。
「それ・・・だから、そうならない」という彼らなりの
「正解」にしがみつこうとするわけです。

下は広告表現から、上は消費税まで「正解」なんてありません。
あるのは「仮説」だけ。その「仮説」が「正解」かどうかは
「やってみないとわからない」というのが正解みたいなもの。
あとは、その仮説にどれだけ説得力があるかということ。

学問を少しだけまじめにやると、そのことに気づきます。
人間なんて、まだ世の中のことをほんの少ししか分かっていません。
おバカな私立文系族は、勉強をしなかったからそれに気づかず、
偏差値秀才族は「もう少しやれば正解があるはず」と考え続けています。

しかし「正解がない」ということに気づいてしまうと、
この世の中で繰り返されることの大半はコントみたいに見えます。
自分の人生でさえ、半ば喜劇のようなものですね。
まあ、ほとんどの「問題」について、人は右往左往しているだけです。

「榊淳司のお奨めマンション速報」

購読料 1ヵ月 1,590

※購読料金のお支払いはクレジットカードのみとなります。

お申込みは コチラから  次のページの右下「カートに入れる」をクリックしてください

メルマガ


2015/5/13 12:31 Comments (3)

3 Comments

まろたんさん、おはようございます。

予定外に早起きしてしまって、眠い朝です(笑)。
私は「マーケットウォチャー」を自認していますが、
自分の人生はマーケティングできていません。
というか、カテゴライズできずに困っています(笑)。

まあしかし、世の中平和ですね。
メディアも困っていますよ。
週刊現代が私の話をネタに「不動産大暴落」とやっています(笑)。
アハハハ、という感じ。まだ暴落する気配さえないのに。

最近思うのは、国の借金が2千兆円になっても
個人の金融資産が3千兆円に膨らんでいれば
たいして今と変わらない世の中ではないかと。
まあ、10年後くらいの話でしょうか。

その昔「千兆円を超えたら大変」なんて言っていました。
世の中、常に「異次元」です(笑)。

それではまた、ごきげんよう。 榊淳司

2015/05/15 09:18 | by Sakaki Atsushi

榊さま。

いま、若いガキごとき、オトコ、オナゴ。

「あまい!」

私は、政治家でも、タレントでもないから、

「媚びないよ」

クソガキごとき、地獄におちゃがれい。

そこから這い上がったガキどもだけ、

サバイブ、生き残れる。

以上。ごきげんよう。

2015/05/14 13:49 | by まろたん

榊さま。

「いま、全てのものが、マーケティングになった」と。

これこそは、資本主義の到達点であり、かつ限界点です。
もう、この先はないし、戻ることもできない。
「喜劇!」
そうですね。笑えない喜劇でしょう。

この先、20年、50年、ひゃくねん、そして・・・。
ひとは、就中、先進国に生きざるを得ないタミ草は、
「どのような人生を送るのでしょう?」
榊さまの言う「喜劇?」
「笑えない、喜劇?」

さて、2015年の、いま。
ギリギリ、ギリギリでしょう。喜劇がありえるのは。
先進国で、あくせくと生息している、タミ草たちよ。
いつ、そんな、お顔になったのかい。
「爬虫類」みたいな。

「いま、全てのものが、マーケティングになった」

おお、コンプリーテッド!
マーケティングされた人生を、平均八〇年も生きるのか。

もう、この先はない。
でも、戻ることもできない。
「どん詰まり」って言うのでしょうか。

そこの気取った、インテリさん。
コングラッチュレーション!

ごきげんよう。

2015/05/13 15:01 | by まろたん

RSS feed for comments on this post.


Leave a comment

※こちらへ書き込みいただいたコメントは、承認後全て表示されます。
マンション購入に関する個別相談等こちらへ表示させたくない場合は、
専用フォームからお願いいたします。