いまだ進化せざるマンション分譲業界

今日はちょっとオカタイ話から始めましょう。
なぜ、私は「買ってはいけないマンション」シリーズや
その他のマンションレポートで、
大手のマンションデベの事業姿勢を批判しているのか、
という基本的なことについてです。

今の新築マンション市場に対して、
私の以下のような疑問点を持っています。

「大多数のマンションデベロッパーは、商品開発や価格設定に関して専ら自分たちの利益と都合を優先し、エンドユーザーの願いやニーズに応えるための努力を怠っているのではないか?」

このことが、私の住宅ジャーナリストとしての活動の原点といえば原点。
長年、この業界にかかわってきて、ヒシヒシとそれを感じていたからです。
この「マンション分譲業界」と、他の様々な業界との
決定的な違いは何だと思われますか?

それは「基本的な競争原理が働かない」ということです。

「エエッ、同じエリアで同じようなマンションが競合しているじゃない?」

そうお考えの方もいますよね。
確かにその通りです。
でも、それは同じ土俵に立ってガップリ四つに組んでの
ガチンコ勝負ではないのです。
不動産とは、その名の通り「動かざる資産」。
2つとして同じものはないのです。
例え50メートルしか離れていないにしろ、
そして同じような広さであったとしても、
「違うものは、違う」のです。
麻布十番

例えば、私が「三井Vs.住友 タワーマンション対決」で取り上げた
東京都港区三田のタワーマンション2棟の「競合」状態でも、
デザインはもちろん、駅への近さ、完成時期などが微妙に異なります。
だから、両天秤にかけてどちらかを選ぶ、という方は
比較的少なかったのではないでしょうか?

さらに、本当の「競争」なら、当然「価格で勝負」という
場面があってもいいはずです。
ところが、この2つのタワーでは今のところ、
ここで取り上げるほどの値引きが行われている様子は窺えません。
両タワーとも、販売が好調とはとても思えないのですが・・・・

つまり、三井不動産レジデンシャルも住友不動産も、
価格面で競争しようという意識は、今のところなさそうです。
というか、それはほぼ避けようとしているように思えます。
その理由は、自分たちの利益とブランドを守るため。

財閥系の大手になると、マンション分譲で利益が出ていなくても
企業として赤字になることはまずありません。
だから、値引きをしてまで売る必要がないのです。

そうすると、どうなるか?

売れないままにいつまでも販売を続けることになります。
現に住友不動産の三軒茶屋や目白の大規模マンションは、
竣工してから何年もたっているのに、未だに販売を続けています。
ここまでくると、流石にこの2物件は値引きをしているようですが(笑)。
それについての、ある程度突っ込んだ内容は
「ただ今値引き販売中マンション」というレポートに書きました。

ただ・・・その値引きの中身が「市場価格」の形成を
促すレベルとはとても思えません。

結局、新築マンション市場では、激しい価格競争が起こらないのです。
熾烈な競争がないと、どうなるのか?
かつてのソ連や30年前の支那、そして今の北朝鮮の
「経済」がどういう状態で、
そこで生み出される工業製品の質がどうだったか・・・
そういう経済の基で、国民はどの程度「豊か」だったでしょう?

ちょっと長くなりますが、私の著書
「年収200万円からのマイホーム戦略」の一節を流用しましょう。

そして、大多数のマンション分譲業者には「安くて良いものを供給しよう」という発想が、ほとんどありません。せいぜい「皆さんの買える中では、ウチの商品はいいモノですよ」とセールストークできる程度に、商品の中身を整えようとするくらいのものです。
だから、「常にマイホームはギリギリ」のところにあるわけです。
考えてみれば、これはかなりおかしな話です。
かつて、流通業界には中内功という人物が現れました。ダイエーの創業者です。彼はスーパーマーケットという業態を作り上げて、消費者が日頃商店で買うあらゆる商品の「価格破壊」を行いました。
自動車業界では、トヨタ、日産、ホンダ……等々のメーカーが熾烈な技術開発と価格面での競争を繰り広げたおかげで、私たちは30年前とほとんど変わらない価格で、格段に性能が進化した乗用車を購入できます。
ところが……マンション分譲の世界では、30年前とほとんど同じ事業スキームがそのまま生きています。建築技術や設備面は多少進化したものの、本質的にはさして変わらない鉄筋コンクリート製の集合住宅を、30年前の何倍もの値段で売っているのです。
 進化がないといえば、これほど進化のない業界も珍しいのではないでしょうか?

結局、大半のエンドユーザーは、
進化せざるマンションデベの作ったマンションを買う羽目になります。

そうしないためにはどうすればいいのか・

そのひとつの方法を、私はあの本の中で示しています。
まだお読みなっていない方は、どうぞ騙されたと思ってお読みください。

さて、彼らが如何に進化していないか、
という「見本」のような大規模マンションがありますので
ひとつご紹介してみましょう。
マンション名は「ライオンズ茅ヶ崎ザ・アイランズ」。
これは「買ってはいけない大規模マンション・神奈川編」でも取り上げました。

まあ、みなさん、このマンションのホームページを覗いてみてください。
HPだけ見ていると、福島県のハワイアンズの
マンション版みたいなので、結構笑えると思いますよ。
そもそも、ハワイというのは、「常夏の島」なのがウリです。
「フラガール」で有名な「常磐ハワイアンセンター」が成功したのは
ばかでっかい建物の内側だけでも「常夏」にしたのが大きな理由だと思います。
それを、表面だけ掠め取って「Seven Days Resort」などと叫び、
エンドユーザーを惑わそうというやり方は、まさに前世紀の手法(笑)。
例えば、厳冬期の1月31日から2月6日までのSeven Daysも
ここはResortなのでしょうか?
ハワイアンズみたいに、全館「常夏」気分を味わえる暖房を、
売主企業の負担で実現してくれるのですか?

野村不動産の「プラウド新浦安パームコート」も、
同様に「リゾート」をウリにしていますが、
あちらはまだしも新浦安という街にリゾートっぽさが漂っています。
こちらは3kmほど先に海がある、というだけです。
おまけに、用途地域は「工業地域」。お隣も工場。

そういう浮ついた一つのテーマだけで
エンドユーザーに大きな買い物をさせようという発想が、なんとも幼稚です。
それでも、価格がよほど安ければ売れたのでしょうが・・・
まあ、ご近所の住友さんよりかは、かなり安いけれど、
そもそもアチラがKY過ぎるくらい高いわけですから(笑)。

もうひとつ、言ってしまえば「・アイランズ」とは何ですか?
私の拙い英語知識では「・アイランズ」とすべきなのですが、
「ズ」を付けねばならぬような島々は、いったいどこにあるのでしょう?
日教組ならずとも、これは見逃せませんな(笑)。
そしていつか書いた通り、
何でもかんでも「THE」を付ければいいというのは、
知的センスに欠ける方々特有の珍妙な言語感覚です。

長谷工の「開発」で売主は大京・・・
片方は日本で一番たくさんマンションを作った会社。
もう一方は、ずっとマンション開発のトップだった企業。
いわば、日本のマンション業界の「両雄」、
なのですが、共に進化しませんね・・・嗚呼。


2010/4/21 14:44 Comments (3)

3 Comments

3キロ先が海なのは茅ヶ崎であって、新浦安ではないと思います。文脈をよく解釈するべきです。
「百万遍近くのオランジュやハイライト」って、どんなお店なのですか?

2010/04/22 00:42 | by GG

パームコートは数百メートル先が海だと思いますが。
3キロは嘘でしょう。

2010/04/22 00:09 | by 匿名

ザ・アイランズの名称は確かに思いっきりダサいと思いますが、「ジ・アイランズじゃ何のことかわからんよ。どうせ日本語なんだからわかりやすくザで行こうや。」みたいな会話が名称決定時に交わされたことは想像に難くないですね。

ウェブサイト見ましたが、マンションのそれぞれの棟を島に見立てているようですよ。だから全部で7つのアイランズ。知っていてわざと皮肉ってらっしゃるのなら失礼。

私は榊さんが今出川をスクーターで通っていたちょうどその頃に百万遍近くのオランジュやハイライトで飯を食っていた人間なので昨日の記事にはちょっと懐かしさを感じました。

2010/04/21 20:34 | by 匿名

RSS feed for comments on this post. TrackBack URL


Leave a comment

※こちらへ書き込みいただいたコメントは、承認後全て表示されます。
マンション購入に関する個別相談等こちらへ表示させたくない場合は、
専用フォームからお願いいたします。