マンション業界の「悲劇」がそそり立っている

この国の新築マンションを巡る業界には、
ある宿命的な「悲劇」が内包されています。

それは、これらの業界で生きている方々のほとんどが、
若い頃の初志として「マンション」というものに、
関わりたいとは思っていなかったのです。

これを「悲劇」といわずして、何といえばいいのでしょう?

まず、マンションを作る方々。
マンションデベロッパーの社員たち、について考えましょう。
大手財閥系といえば、三井・三菱・住友です。
このうち、三井不動産は「マンション部門」を別会社にしました。
三菱地所も、まもなく子会社の藤和不動産に移します。
住友にはその気配はありませんが、
マンション部門は「お荷物」ではないでしょうか?
つまり、大手財閥系の不動産会社におけるマンション開発部門とは、
決して花形でもエリートコースでもないのです。
どちらかといえば、都市開発やビルヂング部門が「主流」。

財閥系の大手ですら、マンション部門で働く方々は
「喜んで」「希望を持って」マンション開発部門に
配属されたとは思えません。

何といっても「主流派」ではないのですから。

そもそも、入社する時に「自分は何としてもマンションをやりたい」と
思って大手財閥系に入る方が何人いるのでしょう?
ほとんどは、配属されてから「ああ、マンションね」という感じで
デベロッパー担当者としてのキャリアを始めるわけです。

大京や藤和不動産のような、いわゆる「専業」デベロッパーに
新卒で入社する方々も、果たしてどれくらいの方が
「自分はマンションのプロをめざすのだ」という「初志」をお持ちでしょうか?
そもそも、大京や藤和が「第一志望」だったのでしょうか?

次に、設計事務所やデベロッパーの設計部門で、
マンションの図面を引く設計者(建築士)たちはどうでしょう?
学生の時から、「自分はいいマンションを作るのだ」という志をもっていて、
それを実現するために入社した方の割合はどれくらいでしょう?
おられたとしても、かなり少ないでしょうね。
何といっても、建築の世界で「マンション」とうフィールドは
いたって地味で味気なく、面白みの薄い仕事と考えられています。
脚光を浴びる可能性も、ほとんどありません。
「日本建築学界賞」という、その世界ではもっとも権威のある賞でも
マンションが「作品賞」を取ることは、まずないのです。

次に、マンションを売る方々。
「俺(私)は、営業をやりたい」「トップセールスマンをめざす」
という「営業系」の志をもって社会人になる方はいるでしょう。
でも最初から「マンション営業でトップをめざす」と考えた方は
かなり少ないと思います。
就職活動をしていて、たまたまブチあたり、内定をもらって
「入ってしまった」というパターンがほとんどでしょうね。
ただ、「不動産営業」というのは専門性の高い分野です。
宅地建物取引業主任者、という独占資格もあります。
この世界に入った方で、結果的に「マンションが好きなる」という
ケースはかなり多いような気がします。
だからかどうか・・・業界の中ではもっとも
元気のいい人が多いのが「販売」系なのです。

最後に、マンションの広告関係。
広告業界の花形は、テレビなどの電波媒体で派手なCFを作る人々。
そして、トヨタやキリンなどのナショナルクライアントを仕切り、
年間何百億もの予算を引き出す人々。
マンションの広告は、やたらと面倒臭いばかりか、
至極わがままで理解力の欠如した不動産屋と付き合わなければならないので、
いってみれば広告業界の中の「鬼っこ」のような存在。
だから、広告代理店への入社を目指す方でも、
最初から「マンション(あるいは不動産)を担当したい」と
志望する方は、まず「皆無」に近いと思います。
不動産部門に配属されたら、
目の前が真っ暗になって転職を考えるほどです。
だから、マンションの広告業務に携わっている方は、
ほとんどが最初は「イヤイヤ」あるいは「諦めて」この仕事を始めるのです。
そして、これもまた、広告業界ではほとんど「日の当たらない」分野。
世にある様々な「広告賞」とも、ほぼ無縁ですから。

数年前のミニバブルにかけて、
この業界の中の一部の方々が大いに勘違いをなさり
タレントを起用したマンションらしくない
ド派手な広告をなさっていましたが、
結局は虚しく失敗し、売れ残りの山を築くという結果に終わりました。

お分かりいただけたでしょうか?
誠に残念ながら「マンション」業界というものは、
若い方々が「入りたい」と熱望するようなところではありません。
しかし、「マンション」業界の様々な分野には、
それぞれに大きな魅力が隠されています。
世間に注目されたり、脚光を浴びることは少ないのですが、
今や都市居住に欠かせない「マンション」の質を高めることは
私たち日本人の「暮らし」を豊かに導くことに直結しています。

しかし、やることはいたって地味です。
あまり外から見えないところで、営々と努力しなければなりません。
そもそも「住宅」という分野は、何事もドッシリと構えるべきです。
表面だけの「浮ついた」部分があってはいけないのではないでしょうか?
建築や広告の「派手さ」など、何も必要がないと思います。
モノ自体はもちろん、広告の面でも、その構造やデザインが
「しっかり」と作られていることが最重要なのです。

ところが・・・時々どういうわけか「マンション」業界の周辺では
大いなる勘違いが行われ、それが巨大なスケールで露出します。
本来「俺はこんなことをやりたくなかったのに」という不満と
「自分にだって主流派に負けない仕事ができるのだ」という、
妙に屈折した感情が、傍から見ると「勘違い」としか思えない
カタチになって目の前に現われるのだと思います。

これは、一種の悲劇ですね。

先に上げた「ド派手」な広告展開は、
「勘違い」の中でも、一時の愚行として
「笑い話」で済まされるかもしれません。
でも、建築デザインで「勘違い」が発生すると、
人々はほぼ恒久的にその影響を受けることになります。

 
これは、とある財閥系企業が山手線沿線で作ったタワーマンションです。
現地周辺を歩いていて、眩暈がしました。
大げさでもなんでもなく・・・気分が悪くなりました。
そして、己がアレを作った人間と同じ生き物であることに
罪悪感すら覚えてしまいました。
人間は、あんな醜い造形物を作ってしまっていいのでしょうか?

丹下健三という建築家がいました。
世界中に作品を残した「大建築家」です。
でも、私はちっとも好きではありません。
彼の作品は、どれも「偉そう」に感じられるからです。

でも、そこにはそれなりに人を唸らせる「美」がありました。
ところが・・・・
あのタワーマンションには「エラそう」な威圧感ばかりで
「美しさ」というものを、カケラも感じません。
だから・・・まさに「醜悪」というべきでしょう。

今回、このタワーマンションも含めた「大崎・五反田エリア」の
レポートをまとめたので、今日からリリースします。
かなり厳しい評価になっています。
あのタワーマンションの購入をもう契約なさった方や、
すでにお住まいになっている人は
正直なところ、読まない方がいいでしょう。
今検討されている方は、
ひとりの「マンションを愛する」ジャーナリストの意見として
読んでみてください。

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もしくは こちらから お願いします。

参考レポート
どう読むか? 住友・大崎 Vs. 三井・五反田 タワーマンション対決
本日発売 3960円


2010/5/27 19:00 Comments (0)

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