本当はエラいことになっている日本

大学3年の時に「外交史」のゼミに入り、最初に原文で読まされた論文は
ジョージ・ケナンの「Origin of cold war」だったと記憶しています。
つまり、「冷戦」はそもそもどこからどうして始まったか、という話。
英語がビッシリ並んだ50ページもの論文のコピーを渡され、
能天気な学生生活を送っていた私が右往左往した話はいつか書いた通り。

当時(1983年)、世界はまだ「冷戦」の真っ只中でした。
アメリカとソ連(今のロシア)が角突きあわせて冷たい戦争をしていました。
支那なんぞは、ただの後進国。
その年の夏に私が旅行したときには、
上海のホテルのレストランで出てきたビールは生ぬるかった。
観光客に冷えたビールを出せないほど貧しかったのです。

しかし、今から考えれば、ある意味「勢力均衡」が出来ていて
今よりも国際社会は安定していました。
何か問題が起きれば、アメリカとソ連が話し合うか、
机の下で蹴り合いをして解決・・・というか結果を出していました。

今の世界は、当時と比べてうんと不安定。
ソ連がロシアに変わって、強面のプレイヤーでなくなった反面、
支那という新興の軍事大国が出てきてアメリカに挑戦しています。
特に最近では海洋への進出に意欲を燃やしている模様。

日本を取り巻く海の勢力地図は、時代と共にかなり変化しています。
一般の方々は領海と公海の区別くらいしかできないと思います。
でも、実は世界の海には「あるじ」がいるのです。
それは、各国の海軍によって暗黙の了解とされています。

カンタンに解説しましょう。
その昔、日本にも「帝国海軍」という輝かしい海洋勢力があった時代、
日本海、東シナ海はもちろん、西太平洋は「日本の海」でした。
しかし大東亜戦争で、帝国海軍は潰えました。
その後、旧帝国海軍の版図はそっくりアメリカ海軍に引き継がれました。
南シナ海は戦前、半ば大英帝国の海でしたが、
それもシンガポールの独立によりアメリカへ。

この状態は半世紀以上も続きます。
1970年代から80年代の初頭、一時的にソ連海軍が台頭します。
日本海は、「ソ連海」などと揶揄される状態でした。
ベトナムのカムラン湾にはソ連海軍の基地が築かれました。
しかし、日本海も南シナ海もアメリカの第七艦隊のパトロール範囲であり、
そこでの演習も続けられていたので、厳密にはアメリカ海軍の勢力圏でした。

この間、日本の海上自衛隊は急速に実力を養います。
現状、自衛艦隊は日本の領海と排他的水域をほぼ独力で防衛する能力を有します。
例えば、現在の状態のまま東シナ海あたりで海上自衛隊と
支那の海軍が通常兵力で戦った場合、圧倒的に有利なはずです。
したがって、アメリカ海軍は日本周辺については友軍である海上自衛隊に
ほぼその役割を移管しているといっていいでしょう。

そして今、西太平洋には3つの海上勢力が存在しまず。
第一にアメリカ海軍。
第二に日本の海上自衛隊。
第三に支那の海軍。
最近、盛んに軍備を増強しているのは支那の海軍。
航空母艦をロシアから買い、自前でも建造中です。
そして、公然と南シナ海での覇権を確立しようとしています。

ただ、南シナ海は依然として「アメリカの海」です。
しかし、アメリカ海軍から日本へ事実上のパトロール権を移管されている
東シナ海においては、海上自衛隊のプレゼンスが怪しくなっています。
というのは、自衛艦隊が戦えば負けるはずないのですが、戦えないのです。
海上自衛隊には、国内法(主に憲法、自衛隊法)の制約があり、
その戦力を有効に生かすことがままならない状態です。

例えば、尖閣諸島には支那の海軍偽装船がちょこまか出没していますが、
堂々と自衛艦隊を派遣して、大砲の一発も撃ってやれば収まる問題。
それを、自衛隊の首脳部はもちろん、政治家もびびって出来ない状態。
そのあたり、早急な法整備が必要です。

まあ、そういう法律問題は別の機会に詳しく論ずるとして・・・
支那は南シナ海ではより公然と、東シナ海では日米のスキを伺いながら、
虎視眈々と「自国の海」にしようと狙っているのは疑いようもない事実。
尖閣諸島のある東シナ海は、海上自衛隊に加えて
世界一の第7艦隊が控えているので、まだチョロチョロです。
でも、海軍力がほぼ皆無に等しいフィリピンや、
非常に脆弱なベトナムが紛争当事国となる南シナ海では、
あからさまに領土を簒奪してきています。

これに対して、アメリカはそろそろ「本気」をだそうとしています。
アメリカは、太平洋における自国の権益に深刻な害をもたらす勢力に対し
過去に何度も軍事力に訴えて排除しようとしてきました。
大きくは、1941年に日本を挑発しての大東亜戦争。
その後の朝鮮戦争。台湾海峡への第7艦隊派遣。
そして、ベトナム戦争もその流れに入ります。

今回、西太平洋における支那の挑戦を受けたアメリカは、
そろそろ真剣になってきたという印象です。
イラクやアフガニスタンの泥沼から抜け出す目途はつきました。
息子ブッシュがヒステリックに始めた対イスラム戦争が、
アメリカの国益にとってさして重要でないことにやっと気付いたのです。
その間、支那は東南のシナ海で思う存分に勢力を拡張しました。

最近のクリントン国務長官の発言の隅々に
「これから支那を抑え込むぞ」という意欲が窺えます。
それは、国際関係にちょっと敏感な人間なら誰でも気付くこと。
でも今のどじょう内閣は、そんなアメリカの動きに呼応して
国益を守ろうという動きをサッパリ感じられません。
前原君がちょこちょこ動いているのがせいぜい。

過去半世紀の間で、東アジア情勢は今が最も不安定です。
北朝鮮ではいつ政権崩壊が起きてもおかしくありません。
支那では、大規模な暴動が起こって政権が流動化する可能性が常にあります。
また、支那の軍部と共産党の指導部は、かなりギクシャクしている様子。
韓国は今のところ安定していますが、元が幼児性ヒステリックの国です。
もっとも安定しているのは、日本でしょう。
政権は常に不安定で、首相はコロコロ変わります。
でも、あんな大地震が襲ってきても暴動一つ起こりません。
日本社会は、世界一といっていいくらい安定しています。
その代わり、アメリカにとってはいまひとつ頼りにならない同盟国。

冷戦時に比べ究めて不安定になっている周辺の国際情勢についても
大多数の国民は「自分たちには関係ない」と思い込んでいます。
でも、そのうち火の粉をかぶることになるでしょう。
むしろ「火の粉」で済めばいいくらい。
それまで、多くの日本人は気付かないのでしょうね。

我々は実のところ、強盗や泥棒、誘拐犯や強姦魔に囲まれて暮らしているのです。
そういっても、今は誰も信じないでしょう。
でも、事実であることには違いがありません。
多くの人は、自分が被害にあってから気付くのです。


2011/10/26 0:53 Comments (0)

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