「申込登録連続即日完売」はかなりの誇大表現

今日は本当に麗らかな春の好日。
こんな日に仕事をしていると、
私は何か悪いことをしているような気になります。
せっかく神様がこんな素晴らしい一日を与えてくれたのに、
オフィスにこもってせっせと文章を書くなどというのは
とんでもない背徳行為の様に思えてしまうのです。
こんな日には桜の下に繰り出して、
明るいうちからお酒を飲んで神様との対話を楽しむのが、
本来の人間の生き方というものではないでしょうか?
まあ、そんなことをほざいても仕方がないので、
巷で起こっているケチ臭い出来事について、
今日もあれこれとケチをつけることにいたしましょう。

前回お約束した通り、今日は真面目にマンションについて。
お題は、最近よく聞く「登録申込即日完売」という表現です。
ウィキペディアでは未だにこの言葉が登録されていないようなので、
僭越ながらわたくしめがこの場で解説しようというワケです。

ところが、正直に申し上げると、私も正確には知らないのです。
だから、一部は推測を織り交ぜることを予めご承知おきください。

まず、私も四半世紀の長きにわたって分譲マンション業界の
周辺をうろついていますが、これは最近初めて見かけた表現です。
今、「登録申込即日完売」でググると出てくるのはほぼ野村不動産の物件。
プラウドタワー東雲にプラウドシーズン、プラウド大阪同心・・・・
ここから推測するに、この表現は最近になって
野村不動産が使い始めたのではないでしょうか?

で・・・いったいどういう意味なのでしょう?
プラウドタワー東雲のHPには今、デカデカとこんな文字が躍っています。

合計406戸申込登録連続即日完売
第1期250戸・第2期156戸

この物件は度々このブログでも取り上げ、
「東雲・辰巳」のレポートで詳しく解説しています。
有楽町線の「豊洲」と「辰巳」の駅からそれぞれ
11分も歩かなければたどり着けない場所にできる、
地上52階のノッポなタワーマンションです。
それだけなら、特にどうということもないのですが、
3.11の大震災の後で最初に売り出された「湾岸タワー」として
世間からはとかく注目されている物件。
何といってもド派手なプロモーション(広告)を展開。
電波メディアにも多大な広告露出を行うことで、
ニュースなどでも再々取り上げられています。
販売サイドが演出したいのは「湾岸人気復活」。

つまり、このマンションは「みんなが買っているから安心ですよ」
という空気を演出するために、ウン億円の広告費を投じたわけです。
なぜそこまでするか、というと理由はただひとつ。
売主が「普通にやったのでは絶対に売れない」と思っているからです。

前述の通り、これは「豊洲」からも「辰巳」からも
11分も歩かなければいけない物件です。
取り柄と言えば52階という超高層ならではの開放感(?)。
キャナルシティの一角、そしてお隣がイオン。
それに、後付けでいっぱい用意した地震対策。
しかし、それもほとんどがすでに時代遅れになりつつあるのですが・・・
つまり、どちらかというと商品力の乏しいタワーマンションです。
だから「普通にやったら絶対に売れない」のです。

お隣のビーコンというタワーマンションは、
立地的にはほぼ同じ条件なのですが、完売まで数年かかりました。
野村は、ビーコンよりも多い600戸を竣工(12月)か、
もしくは入居(2013年4月)までに完売しようとなさっているようです。
だからこそ、何が何でもこの物件を「特別な」「人気のある」
湾岸の新しいタワーマンションとして演出したいのでしょう。

そのためには、やはり好調に売れていなければいけません。
昨年、ほぼ1年かけて4700組を集客して、第1期250戸を
「登録申込即日完売」に持ち込みました。
年が明けてから第2期で110戸。
その後すぐに「第2期2次」と称して6戸。
さらにひと月ほど後に第2期3次で40戸。
これで合わせて「合計406戸※申込登録連続即日完売」なのです。

さて、本題です。
マンションの販売方法には、大きく分けて
「先着順」と「登録抽選」の2種類があります。
先着順とは文字通り早い者勝ち。
「先に申込んで契約する人に販売しますよ」というスタイル。
登録抽選とは、住戸毎に登録してもらうやり方。
例えば101号室に2人の方が登録して締切になると
どちらに優先権を与えるかの抽選を行います。
こうなった時は、102号室の倍率は「2倍」となります。

このプラウドタワー東雲の場合、第1期250戸に対して
「登録総数280、最高倍率3倍、平均倍率1.12倍」と発表されました。
お分かりでしょうが、ほとんどの住戸が「1倍」。
つまり、1住戸につき一人しか登録していないのです。
そして、第1期の戸数が「250戸」と発表されたのは、
私の記憶が正しければ登録受付の1週間前。

これがどういうことか解説します。
以下はこの物件ではなく、業界内で一般に起こり得るパターンです。

まず、販売サイドは、第1期の戸数をなるべく多くしたいのです。
そして「即日完売」にして人気を装いたい・・・・
そのために、同じ住戸に複数の登録が入らないように「調整」します。
ある人が「101号室」を気に入ったとします。
でも、そこはすでに他の客が登録する予定だった場合、
「101号室は抽選になる可能性があります。105号室なら他にいらっしゃいません。それに、要望書をお出しいただければ他のお客様が登録なさらないように当方で調整しますので」
といって、105号室の要望書をださせます。
一旦要望書を出すと「必ずご登録いただけますね?」という
確認の電話がしつこく何回もかかってきます。
「登録するつもりですけど、いったい登録はいつからですか?」
そう聞くと「いえ・・・0月下旬の予定なのですが、まだ確定はしていないので」とかなんとかいって、あいまいにごまかされて数か月待たされます。
そして、いよいよ登録日程が決まると、また電話。
「ご登録いただけますよね。もしいただけないのなら、他に希望なさっている方が何組もいらっしゃいますが」
と言った感じで、半ば脅されます。

販売側としては「こいつは絶対に登録する」という客数が
目標値に達した段階で第1期の登録スケジュールを決めます。
プラウドタワー東雲の場合は、おそらくそれが
300戸だったのだと私は想像しています。
しかし、遅くとも2011年中に第1期の登録をするつもりだったのが、
250戸分しか抑えられなかったので、致し方なくまずそれだけを出した。
同様に2012年に入って第2期で110、6、40と重ねて、今では総計406戸。
まずまず数字は作れました。

ただ、ちょっと途中がせこかったですね。
第2期2次の「6戸」。
これは、第2期で110戸の登録を受け付けた時に、
何かの手違いがあって有望客6人を
抽選で落とさざるを得なかったのでしょう。
でも、彼らも取り込みたいから急きょ
「第2期2次」を催したのではないかと思います。

さて、お気づきでしょうか?
登録抽選の場合、お客が行うのはあくまでも「登録の申込み」。
そこで抽選に当たるか、1倍で自動的に当選して得られるのは
「優先的な申込み権」というべきもの。
つまり、その住戸の購入契約を結ぶか否かは当選者の意思次第。
「やっぱりやーめた」ということも言えるのです。
もちろん、販売現場はそうならないためにあの手この手で攻めてきます。
「当選されたら、ご契約いただけますね?」
といった、確認の電話を再々かけてくるはずです。
また、抽選日から契約までできるだけ時間を空けないようにします。
速いときには、抽選日に手付金を持ってこさせて契約、というのもあります。
土曜日に抽選、日曜日に契約、というパターンも多くなりました。

しかし・・・当たり前ですが登録した人間が
100%購入契約を結ぶことはあり得ません。
2割程度がこぼれるのは業界の常識。
だから、プラウドタワー東雲の場合も
406戸に対して登録した人がいるだけで、
その方々が全員契約したとは限らないのです。
それがいわゆる「登録申込即日完売」という状態。

私の感覚では、ちょっと日本語の表現がおかしいですね。
「即日完売」という4文字をひっつけると、
まるで406戸が全部売れたように思えます。
これは、誇大表現といってもよいのではないでしょうか?

その昔、まだマンションを作る先から売れていた時代、
登録抽選で「平均3倍で即日完売」などということがままありました。
つまり、1住戸について3組も登録しているワケですから、
当選者が「やーめた」となっても、
次の人を繰り上げ当選にすればよかったのです。
だから平均倍率が「3倍」くらいあると、
ほぼ間違いなく全戸の売買契約が結べました。
でも、プラウドタワー東雲の様に「平均1.12倍」じゃあねえ・・・

あと、あまりこういうことは言いたくないのですが、
誰が登録したって登録は登録です。
その後、買う気のない人でも登録は出来ます。
登録して、「やめます」といえばペナルティなし。
だから、販売現場では往々にして「登録」だけしてくれる客を
何でもいいからかき集めて「数字を作る」ことも日常茶飯事。

さらに言ってしまえば、手付金を払って契約したけれど
「やっぱりやめよう」と思えば、それも可能。
手付金を放棄すればよいのです。
そういった方も、だいたい数%は出てくるものです。
つまりは、「合計406戸※申込登録連続即日完売」であっても、
実際に売買契約が結べたのは「300戸未満」なんてことは
理論的には十分にあり得るワケです。
業界の常識としては、ごく当たり前のことでしょう。

それにしても、この「申込登録連続即日完売」というのは
一般消費者が誤解を招きやすい表現ですね。
あれだけ見れば
「600戸の内406戸ということは3分の2以上売れている」
と考える人がほとんどでしょう。
そもそも「完売」していないはずなのに
「完売」というワードを使うのは悪質ですね。
公取協はそれでいいと考えているのでしょうか?
もっと一般消費者の立場にたった指導を行うべきではありませんか。

さて、常に一般消費者の側に立った視点で発行している
当研究所のレポート更新情報です。

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2012/4/4 18:18 Comments (0)

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