マンションは価格を決めてから募集せよ!

私は、白洲次郎という人が好きです。
明治生まれの、もうとっくに亡くなった方。
日本が敗戦後、アメリカに占領されていた時期に
GHQを相手に必死で国益を守ってくれた尊い人物です。

その白洲次郎の言葉に、こういうのがあります。
「ボクは人から、アカデミックな、プリミティブな正義感を振りまわされるのは困る、とよくいわれる。しかしボクにはそれが貴いものだと思っている。他人には幼稚なものかもしれんが、これだけは死ぬまで捨てない・・・・」

カンタンに言えば、「正論を大切にする、曲げない」ということでしょう。
私はこういう彼の生き方に対して大いに共感します。
世の中、妙にモノわかりよすぎです。
とまあ、こんな風に書きだすと
「お、また今回も脱線か?」と思われそうですね。
いいえ、今日はまっとうにマンションの話です。


開催直前の参加申込みが相次ぎ、当初予定した通り20名ほどにご参加いただきました。

昨日、私の11回目のセミナーを開催しました。
講演のあと、マンション購入についての個人相談を承ったのですが、
その中のお一人が手書きの価格表を持ってこられました。
販売センターでもらう、金額が空欄になった住戸割表みたいなやつです。
そこに、エンピツで販売金額が書き込まれています。

「これ、ご自身でお書きになったのですか?」
「いいえ、向こうの方(営業担当)が書かれたものです」
「この価格で決定なのですか?」
「いいえ。要望書が出なかったところは少し価格を下げるようですが、要望書が出たところは上げないけれども下げることもしないと言われました」
まあ、その営業担当者はわりと正直ですね。
でも、そもそもそういうことってヘンだと思いませんか?

少し分かりやすく解説します。
新築マンションの価格というものは募集広告を始める時点で
確定していないケースが多いのです。
では、どうするのか?
まず「予告広告」という名の募集広告を行います。
価格をはっきり出さないで広告するのです。

「予告広告 販売を開始するまでは購入のお申込み、または予約ができません」

こういった断り書きが広告のどこかに掲載されています。
しかし「購入のお申込み、または予約」ができないにもかかわらず、
モデルルームでは、堂々と販売のための営業活動が行われます。
ただ、価格が分からないと営業できませんよね。

そこで、価格が空欄になった「価格表」が登場します。
価格は最終決定していなくても、
売主企業は「0000万円で売りたい」という希望価格は存在します。
「この住戸は5000万円でも十分利益は取れるけれど、できれば5500万円で売れれば儲かっちゃんだけどなー」
というのが、売主企業の希望価格。

そこで現場の担当者は、空欄になったところへ「5500」と書き込み、
モデルルームにやってきたお客さんに
「この住戸は一応5500万円です。それ以上に高くなることはないと思います」
というふうに説明するワケです。
それで、そのお客さんが「5500万円・・・買おうかしら」となったら
「それじゃあ、要望書を出してください」
ということになります。
要望書というのは「私は000号室の購入を希望します」という申込書のようなモノ。

実は、この要望書と呼ばれるものには何ら法的拘束力がありません。
その際に「証拠金を10万円お願いします」なんて言われて
素直に10万円を出したとしても、それはあくまで「預り金」。
「やっぱり買いません」といえば返してもらえるものです。
それを何のかんのと言って返さなければ宅建業法違反どころか、
刑法の詐欺罪で逮捕されてもおかしくありません。
まあ、それはいいとして。

こういったやり取りが、「予告広告」の期間中に行われています。
「購入のお申込み、または予約」は出来ないけれど
お客は「要望書」なる「購入申込書」を書かされるのです。
これって、完全な販売活動ですよね。

そして、「5500」万円で要望書が提出され、
それを出した客が「かなり有望」となると、
その住戸の価格は5500万円になる可能性が高くなります。
もっとも、他の住戸にほとんど人気がなく、
その5500万円の部屋だけ要望書が出た、となると今度は
全体的な価格が見直されるので5500の線は消えます。

つまり、売主側は予告広告というグレーな期間を利用して
「できるだけ高く売るため」に実地に客を誘い出して
マーケティング調査をしているようなものです。
私は、市場の反応を確認しながら販売価格を決めることを
悪いことだというつもりはありません。
市場を無視した価格を付けて、竣工後何年も売れ残るよりマシ。

私が、この「予告広告」と「空欄の価格表」で問題にしたいのは、
市場調査なのか販売活動なのかはっきりさせないまま、
未定価格を提示して購入の意思を問いただしている不健全な現状。
これって、消費者側に著しく不利な取引だと思います。
というのは、みなさんはモデルルームに行って
何とはなしに見せられた手書きの数字をみて
「買う」とか「高い」と反応しなければなりません。
実は、それが立派な「価格交渉」になっているのです。
いってみれば「だまし討ち」にあっているようなモノ。
そこで「はい、買います」といってしまったら
5000万円で買えた可能性もある物件を5500万円で
買うことになってしまうのですから。
エンドユーザーの無知に付け入る悪徳商法そのものです。

私は、こういう売主に一方的に有利な「価格交渉」が
罷り通っている諸悪の根源は「予告広告」という制度にあると思います。
価格が決まっていないフリをしながら客を集めて
できるだけ高値で販売することを可能にしているからです。

当たり前ですが、「企業」対「一消費者」というのは消費者側が不利。
ですから規制というものは本来消費者を保護しなければなりません。
であるにも関わらず、予告広告というシステムは
著しく売主企業側に都合の良い規制となっています。
これは、改めるべきです。
予告広告というもの自体を、禁止にすべきですね。
手法としては、宅建業法に一条を追加するだけで済むでしょう。

新築住宅の分譲および販売において購入者を募集する場合は、必ず販売価格を提示して行わなければならない。また、販売価格を公開していない新築住宅の販売活動およびそれに類する一切の行為は、これを禁止する。

これによって、モデルルームや販売センターで
コソコソと手書きの価格表を見せながらインチキ臭く
エンドユーザーをだまくらかそうとする光景はなくなるでしょう。
価格は一旦発表してしまえば、それで売り切るか
そうでなければルールに従って値下げをすべきですね。
また自由経済の法則にのっとれば、値上げも認めるべきです。
ただし、やってはいけないのは企業側が裏でコソコソと
自分たちに都合のいいように価格を操作すること。
住宅というのは半ば社会の公器です。
その取引には一定水準の透明性を保つべき、というのが私の考え。

これは一般的には正論ですが、
マンションデベ業界から見れば暴論でしょう。
これまでやってきたズルい方法が取れなくなるからです。
でも、今後も私は「予告広告の禁止」を訴えていきます。
これは、私にとっての「プリミティブな正義感」の一活動。
実現するまで、いつまでも叫び続けるつもりです。

次回セミナーは2013年4月20日(土)午後1時30分からに決定。
場所も、今回と同じ「ルーテル市ヶ谷」です。
また、年が明けてしばらくしたら参加者募集を始めます。

参考レポート

東京のタワーマンション
全解説59物件
価格 13,900円

物件が増えて、なんと244ページに!
致し方なく、価格も上げさせていただきました。
ここで取り上げた物件は以下の通り(アイウエオ順)。

アークヒルズ仙石山レジデンスー
アトラスブランズタワー三河島
インプレスト芝浦 エアレジデンス
ウェリスタワー千代田岩本町
ウェリス愛宕虎ノ門
大崎ウエストシティタワーズ
OWL TOWER
勝どきビュータワー
CAPITAL GATE PLACE
クラッシィタワー東中野
グランスイート麻布台ヒルトップタワー
グランドヒルズ三軒茶屋
クレストタワー品川シーサイド
クレストプライムタワー芝
クロスエアタワー
コンシェリア西新宿TOWER’S WEST
ザ・グランアルト錦糸町
ザ・山王タワー
ザ・タワーレジデンス大塚
ザ・パークハウス 青砥
ザ・パークハウス浅草橋タワーレジデンス
ザ・パークハウス新宿タワー
ザ・パークハウス西麻布
ザ・パークハウス 晴海タワーズ
ザ 湾岸タワー レックスガーデン
SAION SAKURAZAKA
THE ROPPONGI TOKYO
シティタワー赤羽テラス
シティタワー麻布十番
シティタワー有明
シティタワー上野池之端
シティタワーズ豊洲 ザ・シンボル
シティタワーズ豊洲 ザ・ツイン
シティテラス大井仙台坂ヒルトップガーデン
SKYZ TOWER&GARDEN
東京豊島区再開発プロジェクト
東京ベイシティタワー
パークコート麻布十番ザ タワー
パークコート千代田富士見 ザ タワー
パークコート六本木ヒルトップ
パークタワー山王
パークタワー高輪
パークタワー東雲
パークタワー渋谷本町
パークタワー滝野川
パークタワー西新宿エムズポート
パークタワーグランスカイ
二子玉川ライズ タワー&レジデンス
プラウドタワー東雲キャナルコート
プラウドタワー白金台
プラウドタワー高輪台
プラウドタワー千代田富士見レジデンス
ブランズタワー文京小日向
ブリリア有明シティタワー
ブリリア有明スカイタワー
ライオンズタワー目黒川
ル・サンク大崎ウィズタワー
ルフォン白金台 ザ・タワーレジデンス
ルミナリータワー池袋

このうち「買ってはいけない」26物件を抽出したのが

買ってはいけないタワーマンション
東京都心編 26物件
価格 6,980円

 


2012/11/19 18:19 Comments (1)

1件のコメント

久しぶりにこちらを拝見しました。
未だ、新居選びを虎視眈々?辛抱強く?(笑)しています。
そのうち、結局は賃貸暮らしを選ぶかもしれませんが..。

ところで、価格を決めて募集してほしいという事は、
私もずっとずっと思っておりました。

何等か仕事をしたことのある人なら、価格未定でものを売る
計画をする事業なんてありえません。
不動産会社のかたと話すたび、なぜこの業界だけこの厳しい
時代にこれだけ消費者に対して傲慢な商売ができる業界が存在
出来るのか?と不思議に思います。

最近こそ、ザックリ価格なるものを電話でも伝えるまともなデべも
増えたように感じますが、とにかく品定めさせられる感が消えない
売り方に人として辟易することも多いです。

値段も何もわからないのに、「モデルルームにきてください」
「資料請求に個人情報を書いて申し込んだ人からしか情報は与えません」と言った言葉は、いまもなお多いのが事実です。

そのたび、価格も何もわからないのになぜ貴重な日を、交通費払って来いと言うのでしょうか?
と逆に質問することもしばしば。
こちらの真のニーズや、無駄な労力がどれだけマンション探しを
しづらいものにしているか..お伝えすることも多くなりました。

インターネットも普及しているのに、それを十分消費者の為に活用せずにと言うのは、買い手から見るととてもジレンマです。

サラリーマンが欲しいのは、まず買える価格帯であるかどうか?
そして、それぞれが望む間取りや位置、広さ、から始まります。
立地とか近隣は、とりあえず興味があれば、自分で歩かなくては解らないので一人で確認します。

HPには、ランドスケープ、間取り、等を早急に充実してほしいと
思います。
プラスアルファとして、これはいいなと思ったのは、家具のレイアウトシステムが備わったHPです。
天井高もさることながら、今手持ちの家具がいくつ使えるかや、
寸法や、家具が入った後の感覚がイメージしやすいのです。

これらが、情報として早く手に入れば、検討者の無駄な動きやジレンマも軽減されます。
区切りをつけて、譲れない項目3つくらいが揃うものを整理して見に行くこともできます。

「予告広告の禁止」実現すればほんとに、素晴らしいですね。
売り方も作り方ももっと進歩していくのではないかと、一消費者としてとてもとても期待しています。

予告広告期間の何も答えられない人件費も削れて、余計な広告宣伝費も削ることが出来、販売もだらだらしなくなるのではないでしょうか?と私はずっと思っています。

2013/03/01 14:21 | by まるさん

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