マンションが丈夫になって困ること

昨日は朝から、某地上局のV撮りに付き合って
築50年近い公団の分譲マンションを見てきました。
感想を一言でいえば「まだ十分に住めるじゃない」。
そこは管理もよく行き届いており、外壁も塗り替えられています。
住戸の中にも入れてもらいましたが、一番辛そうなのはお風呂。
キッチンや洗面などは新しく換えておられました。
だから「全然大丈夫じゃないですか」という感じ。

あのころにはユニットバスがなかったのでしょうね。
お風呂は狭くてタイル張り。内側に給湯が付いているタイプ。
まあ、取り替えようと思えば取り替えられるのでしょうけど、
ちょっと大変な工事になりそうです。

その団地、最近建て替えのための臨時総会が開かれて、
割合小差ながら全体の建て替えが否決されてしまったそうです。
聞けば、負担金が生じる建て替え計画だったと言います。
負担金がゼロなら結果は違ったかもしれませんね。

住民のおひとりに伺ったところ、数百戸あるうちで、
最初からの住民は2割程度だそうです。
まあ、半世紀近く経過しているとそうなりますよね。
天気の良い平日の午前に訪問したのですが、
お隣の公園でも遊んでいる子どもの姿を見かけません。
自転車置き場に、子供用の自転車類が皆無。
若者用のスポーツタイプもほとんど見かけません。
建物も住民も、団地全体が高齢化してしまったでしょう。

仮に、当初分譲時に33歳でそこに住み始めた方は、今81歳。
孫どころか、ひ孫がいてもおかしくない年齢に達しています。
おそらく、住民の平均年齢は60歳を超えているはず。
「あと何年生きるかわからないのに、引っ越しを2回もするなんて」
と考えれば、億劫になるでしょうね。

その団地は、ハッキリ言って郊外のやや寂しいロケーション。
だから、床面積は倍以上に増やせるのに負担金が生じるのでしょう。
都心で容積率が余っている場合は、また話が違ってきます。
負担金がゼロどころか、それまでよりも広い住戸に住めるケースも有ります。
しかし、管理費や修繕積立金はほぼ確実に上がります。
現金収入の少ない方にとって、それは重い負担です。

都心のタワーマンションでは、旧地権者は敷地内の別の板状棟に住んで、
その管理費負担はタワー棟の駐車場使用料で賄う、というケースがありました。
つまり、旧地権者は管理費を払わなくてよい、という手法。
これって厳密にいえば民法に抵触するのではないかと私は疑いました。
でも、やっているのが天下の三井不動産レジデンシャルですから、
まあ何とかクリアしているのでしょうね。理屈は知りませんが。

いつか書いた通り、マンションの建て替えというのは、
決議が可決されて準備中のものも含め、
全国で200ちょっとしか実現していません。
これって私の推定で全体のコンマ2パーセントです。
築30年以上のマンションに限っても、1%いかないはずです。
なぜ、そんなに少ないのでしょう? 理由はいくつかあります。

●5分の4決議が困難
建て替えを行うためには、現状の法制度では区分所有者全員の
5分の4が賛成しなければなりません。
数棟に分かれている場合は、加えて各棟で3分の2以上の賛成が必要。
管理組合の総会というものは、定足数である全区分所有者の半分の
出席や委任状等を集めるのでも苦労しているのが現状。
築30年以上にもなるマンションで5分の4というのはかなり困難。

●多大な負担金が足かせ
この200ちょっとの建て替え事例のほとんどが「負担金ゼロ」のはず。
たとえ各住戸500万円の負担金であっても、出せない区分所有者が
5分の1以上いたら決議は事実上不可能です。
負担金がゼロになるのは容積率が余っている都心立地、
というケースなら可能ですが、それ以外ではほぼ無理。

●建て替えなくても、現状で住める
私が昨日訪れた団地のように「まだ十分に住める」とう場合も多数。
鉄筋コンクリートの建物というものは、施工精度にもよりますが
場合によっては100年くらい持つのではないかと私は考えます。
だから、「まだ住める」と考える人は反対に回ります。

まあ、だいたい以上のようなことが理由でしょう。
つまりは、ほとんどが「お金の問題」。
次があるとすれば体力の問題。たいていの場合、主役は高齢者。
2,3年の内で2回引っ越すというのは相当に大変。
まあ、考え方にもよりますけれど。

最近、こういったテーマでメディアからの取材が多くなりました。
私のような小物のところにも結構な頻度であるから、
メジャーなお方はこの問題で頻繁にメディア対応されているはず。
私はあまり熱心に情報集めをしないのであまり目に留まりませんが、
世の中の様々なメディアで取り上げられているはず。
特に、ネット以外の旧媒体に多いのではないでしょうか。
読者層がその問題に直面している高齢者と重なりますから。

ちょっと前にも書いたような気がしますが、
これからの住宅取引は、その主役が新築から中古へと変わります。
これはマンションでも戸建てでもそうなると予測します。
今の建築費高騰は、そのキッカケづくりに貢献しています。

日本人は新しいものをありがたがり、中古を蔑む風潮があります。
人間30を超えれば、自分自身が「中古品」みたいなもんでしょ。
企業にしたところで新卒は新品、転職組は中古品です。
新卒は、マンションでいえば新築の青田買いのようなもの。
入社させてみて、そのあとどうなるかはギャンブルみたいなもの。
転職組の場合、前の会社での実績や評価評判を調査できます。

中古マンションの購入も同じ。
新築を竣工前に購入するのは、売主が大手でもちょっとしたギャンブル。
今年起こった数々の建築現場の不具合発覚がそれを証明しています。
しかし、中古の場合は新築以来の補修歴などを調査できます。
私は、事務所にいらっしゃる相談者によく申し上げます。
「築10年で一度も雨漏りしなかったマンションは、その先の10年20年しない確率が高いのです。築15年目や22年目で雨漏りが発生した、という話を聞きませんから。でも新築3年目で雨漏りしているようなマンションは、その先ずっと雨漏りが発生し続けるはずです。工事が粗雑だったからでしょうね。そういう中古を買ってはいけません」

私はもう28年ほどマンションを飯の種にして生きています。
その間、マンション業界の体質はほとんど進化していません。
しかし、作っているマンションの中身はやや進化しています。
耐久性能や安全性、メンテナンス性能が向上しているように思えます。
デザインは、長谷工プロジェクトの蔓延により退化しましたね。

この先、老朽化するマンションは社会問題となります。
これは建物の老朽化というハードの問題よりも、
住んでいる人間から生じるソフトの問題。
マンションはあと数十年でも住めるけれども、
住んでいる人間が高齢化と鬼籍入りで空室化、廃墟化、スラム化・・・

すでに、リゾートマンションで発生しているこの問題が、
徐々に都心に向かって押し寄せているのです。
冒頭に紹介した例でも、5分の4決議が否決されて建て替えがとん挫。
私は建て替えがすべての解決策だとは思いませんが、
今の成立要件は厳しすぎます。せめて4分の3にすべきですね。
それに、空室や無主が多くなったマンションには、
行政が適宜介入できる法制度を整備すべきです。
これは、私が前から言っていること。
今のところ、どこの政党もこの問題には関心なさそうですね。
まあ、こんなことは票にならないのでしょう。

さて、レポートの更新情報です。
江戸川区を中心とした3つのレポートを更新。
新しい物件が出にくくなっています。
しかし、郊外に行けば行くほど建築価格の高騰を
価格に反映できなくなっていますね。
まあ、経済原理から言えば当たり前のことですが。
買い手の所得が上がっていないのに、
コストが上がったからと言って製品価格には反映できません。

小岩・新小岩・平井
価格 3,890

■アルファグランデ小岩スカイファースト、■ルネサンス小岩ブライトアリーナ、■アデニウム北小岩、■クリスタルマークス、■ライオンズ新小岩グランフォート、■(仮称)平井大規模プロジェクト、■サンクレイドル東小岩、■新小岩パークフロント、■ルピアコート新小岩、■ジオ新小岩、■エクセレントシティ小岩、■サンクレイドル新小岩親水公園II

葛西・西葛西
価格 3,390

■ルネサンス葛西ザ・レジデンス、■アーバンパレス葛西、■レジデントプレイス西葛西、■ザ・ガーデンズ西葛西、■プレミスト葛西、■プレシス西葛西アクアフォート、■アルファグランデ葛西臨海公園、■パークホームズ西葛西 清新町

船堀・一之江・瑞江・篠崎
価格 1,890

■エクセレントシティ瑞江パークフロント、■エクセレントシティ瑞江III、■アルファグランデ篠崎弐番街、■プレシス瑞江、■ファーストシーン篠崎Clari

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2014/11/22 17:56 Comments (2)

2 Comments

まろたんさん、こんにちは。

今日は中々に厳しいご卓見。
私はまろたんさんの十数年後輩ですが、
現役としてはかなりロートルの部類です。
古巣の広告業界で仕事をすると、長老の部類。
どいつもこいつも年下、という感じになりました。
特に、制作(クリエイティブ)の世界では。

で、「若いもん」を見ていると、自分と比べて遜色なし。
まあ、私が若い頃はやる気がなかったのでそう思えるのかも。
テキトーにやっていれば仕事になったので、すべてテキトー。
あの仕事自体が、あまり好きではなかったのでしょうね。

ですので、若いもんが一概にダメだとは思えません。
私の世代に比べて多少甘いかな、とは思いますが。

愚民度は、わが新人類世代もバブル採用世代も団塊ジュニア世代も、
僭越ながらまろたんさんたちの団塊世代もさして変わらないと思います。
ただ、世代それぞれの特性はありそうです。
甘やかされ度も違うでしょう。

いつの時代も、愚民は多数派です。
でなければ、私のような「ちょっとだけ賢民」と自惚れている人間が困ります。

しかし、民主主義は危うい制度です。どの国でも。
私の知るこの40年ほど、日本人の知性が向上したとは思えませんね。
「やや低下」というのがひいき目。
危機感を少し抱いています。

またご卓見を。 ごきげんよう  榊淳司

2014/11/23 11:17 | by Sakaki Atsushi

榊さま。

昨日、都心のホテルで或る薬害の大会とシンポジウムがあり、
出掛けました。
ひさびさの都心突撃で、人混みに揉まれグッタリですわ。
どこから湧いて来るのか、多いのなんのって。

さて。
今日のお題ですが、これは重量級ですね。
しかもこの先、年を追うごとにズッシリ重くなるマターです。
間違いなく、不動産ビジネスのメイン・ストリームが変わりますね。
業界ももちろんですが、行政もこれに対応していけるのか。
国民も意識革命し、対応していけるのか。
後手後手でドロナワでは、国挙げての社会問題にもなります。
私はとりあえず外野席ですが、安閑としてはおられませんね。
ヒトゴトではありません。

更に薬害問題もそうですが、国家内政の根幹を支える諸問題。
年金・医療・老人介護・貧困・生活保護などなどの社会保障。
そうとうにガタが来ています。
加えて、今日のお題の住宅政策。
そして崩壊状態の教育政策。おお。

これら内政の根幹を、もはや手直しでは、この先持たない。
国家政府、関連業界、そして肝心カナメの国民と。
ピンセットでつまむような、セコイことをしてたんじゃ、
この先、もう持たない、総崩れ間違いなしですわ。
話は大所高所になりますが、各層こぞって、
大所高所で考え、意識革命する時期ですわ。

若いもんは、何を考えてるのか、考えてないのか。
国家政府まかせ、アナタまかせでは、ただの田吾作。
もはや、国家政府にカネはないのだから。
国家の収入も、個人の収入も増えんどころか、減りそうな。
しからば国民は、カネの使い方・コスパを徹底しなければ。

若いもんは、カネが足らんとグチるばかりではなく、
自分の人生・生き方・価値観など、造り直なさないと突破できん。
あえて顔のことを言うと、
どいつもこいつも、同じような「コピペ顔」しているが、
若いもんは「苦労が足らん」「辛抱がない」ですね。

厳しいことですが、若いもん自身が変革してゆくしかない。
自分たちで切り開いた社会でしか生きてゆけないのです。
年寄りをアテにし、言い訳にしていては、アウト!
これは、いつの時代でも同じこと。
もはや手遅れですが「シツケ・初等教育」からやり直さないと、
根っこがフワフワでは、上に何を造ってもグラグラでしょう。

もはや、変革・突破への残された時間は少ない。
2020・五輪大宴会が、大きく重要な潮目でしょう。
まさに衰退の、ダブル・クリック。
それまでの5年間、私は片隅で、この国・国民の覚悟を、
見定めようと腹に決めています。

グーミンが多過ぎますな。
政治家もグーミンだらけだけど、選んでいるのは国民。
であるなら、国民こそがグーミン。
最後に吠えよう。
若もんよ、グーミン根性を入れ直して「動け!」。

今日は、ひさびさに「ぶって」しまいました。
昨日、ひさびさ都心に出て、テンション上がったせいかも。
最後に「ゴミ箱」にドラッグしいて。

ごきげんよう。

2014/11/23 07:50 | by まろたん

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