「○○は高いところに住みたがる」から生まれる超高層マンション

前回、アルカイダの項で超高層マンションについて触れたので、
今日はその勢いで行きましょう。

前から何度も書いているように、私は超高層(タワー)マンションについて
基本的には懐疑的な見方をしています。
そもそも、なぜにあのような「集合住宅」が必要なのか?
という疑問から出発すべきなのです。
「集合住宅」というものは、限られた土地に多くの住宅を
作らなければいけない場合に、便宜的に選ばれる手法です。

人間は、所詮は猿の亜種に過ぎないわけで、鳥ではありません。
地べたに近いところに暮らすのが自然な生き物です。
「○○な奴ほど高いところに登りたがる」というのは
我らがご先祖様がアフリカの森林で、
猛獣を避けて木の上で暮らしていた頃の「記憶」を
呼び覚ましている本能的な行為である、と私は思っています。

ということを考えれば、我ら人類はせいぜい木の高さ程度の
ところに暮らすのが、より自然な状態だと思います。

人間を生物としてみれば、平屋か、せいぜい3階建て程度の住まいが自然です。
実際、地べたに直接つながっている住まいの方が
気分的に落ち着けます。火事や地震、ガス漏れなどでも、
すぐに逃げ出せそうな気がしますから。

ちょっと話はそれますが集合住宅でも、
この「地べたにつながっている」ことを基本とする
「長屋」形式のマンションがあります。
不思議なことに、建築基準法で「長屋」と規定されているだけで
一般の「マンション」よりも「格下」と
みなす方がたくさんいらっしゃいます。
私は、エレベータを使わないと何もできない「マンション」よりも
あっという間に外に出られる長屋の方が、
はるかに実用的なスタイルだと思っていますが。

話を戻します。
猿から進化した人間は「社会」を生み出し、
群がって暮らしを住む「街」を作りました。
すると、必然的に土地が足りなくなります。
でも、街の中心に住めば何かと便利です。
そこで、限られた土地の中に多くの住処を作ることができる
「集合住宅」なるスタイルが生まれたのです。

これは現代に限ったことではなく、
古代ローマから中世のパリ、マヤ文明の都市、江戸期の江戸にもあること。
人間の考えることなど、どこも似たり寄ったりです。

現代に至り、交通手段が発達しました。
街中に住まなくても、鉄道やバス、マイカーを使えば
毎日のように街へ「通勤」することが可能になりました。
でも、街中に住めば便利には違いありません。
だから、街の中心エリアには、限られた土地を
より効率的に生かすために超高層(タワー)が生まれました。

まあ、いってみれば「必要悪」みたいなものです。
だから、ここまでは私も理解できるし、納得もします。
ところが、この「必要悪」を「ステイタス」とみなしている方々が
あまりにも多いのが今の日本ではないでしょうか?
カンタンに言えば、

タワーマンションに住んでいるのはカッコイイ

と思っていらっしゃるワケです。
前回の更新で書いたとおり、私は絶対的な少数派です。
世間の大半が「常識」と思い込んでいることでも
自分の中で納得できなければ、
いかなる既成概念も受け入れない教師泣かせタイプなのです(笑)。
だから、ここ20年ほどタワーマンションが増殖する過程で
ずっと疑念を抱いていました。

果たして、タワーマンションに住むということは
それほど価値のあることなのでしょうか?

まず、カッコイイかカッコワルイかは
価値観の問題といっていいでしょう。
私が問いたいのは合理的根拠です。
タワーマンションにはどんなメリットがあるのか?

都心に住む、ということはそれなりに価値があります。
それ以外、私が唯一メリットだと認めるのは「眺望」です。
これはまず、通常の高層マンションよりも高い16階以上の
住戸に住んだ場合にのみ得られるものです。
だから、タワーマンションの中層階以下には、
何のメリットもないと思います。

あとは、デメリットばかりめだちます。
● 分譲価格が周辺のマンションよりも高くなる
● 管理費が割高、駐車場はベラボー
● 快適・安全のための「前提条件」が多すぎる

この「前提条件」について解説しましょう。
カンタンに言えば「それが正常に機能すること」を前提にして
普段の生活や基本的な安全性が成り立ていることです。
● エレベータが正常に作動する
● 機械式駐車場が正常に作動する
● 電気が止まらない
● セキュリティ機能が正常に作動する
以上に上げたのは、ほんの一部の前提条件です。
お気づきかと思いますが、阪神大震災級の地震が来れば
これらの前提条件は、すべて崩れ去ります。
もっとも脆弱なのはエレベータです。
このエレベータ関しては
● 地震管制運転制御装置が正常に作動して
「大地震発生時には最寄り階に停止してドアが開く」
● 地震の発生後、送電が回復すれば速やかに作動が再開できる
ということが、超高層タワーで快適・安全に暮らす前提条件になります。

ひとつめの地震管制運転制御装置について、
私はかなり怪しいと思っています。
2005年7月に発生した関東地方の各所で震度5弱を観測した地震で
閉じ込め事故が発生したエレベータは78台(日本エレベータ協会調べ)。
そのうち73台,9割を超えるエレベータが地震時管制運転装置を装備していました。
さらにこの73台のエレベータについて調査してみると,
うち50台でドア開放検知による緊急停止装置が作動していた。
つまり,これら二つの安全装置が同時に作動していたのです。

震度5でこの有様です。
このときはたったの78台で済みました。
阪神大震災級(6強から7)がくれば、何百、何千という
エレベータで同じことが起こると予想できます。

ふたつめに関しては、さらに悲惨です。
いったい、首都圏には何人のエレベータ技術者がいて
その中でどのくらい人々が「救出」に向かえるのか???

阪神級の地震が起これば・・・・
閉じ込められた人は、生存している間に救出できるのでしょうか?
それを考えれば、私は怖くてとてもタワーマンションには住めません。

生きるか死ぬかは別として、すべてのエレベータは
安全が確認できるまで動かせないはずです。
ですから、まあ控えめに見ても、
2,3週間は正常な暮らしは不可能ですね。
問題は、電気だけではないのです。
超高層の場合、水も電力で上階へ汲み上げています。
電気が来なければ、水洗式トイレが使えなくなりますね。
10階よりも上に住んでいる方は、そこを降りて
最寄の「避難所」に身を寄せることになるでしょう。
タワーマンションに住んでいるが故に、
いざというときは、近くの小学校の体育館で起居・・・
カッコイイのか、悪いのか?

前提条件が崩れるもっとも大きな要因は、この地震。
でも、他にも様々な危険があります。
9.11みたいなことは、日本では起こらないかもしれませんが、
飛行機やヘリコプターが衝突しやすい条件を備えています。
窓を開ければ、強風が吹き込んで住戸内の事故も起こりやすくなります。
私の知人は、タワーに住んだこの7年で
5回の飛び降り自殺に遭遇したそうです。

そもそも集合住宅とは、街中に住むための便宜的な手法。
超高層タワーは、その最たるもので、
高いところに住むことが本来の目的ではなかったはずです。

「眺望がいいじゃない」

確かにいいですよね。
でも、毎日同じ眺めを見ているとあきませんか?
ああいのは、旅行や休暇でホテルに泊まったときに味わう
非日常性があってこそ楽しめるものだと思います。
平凡な日常の中に溶け込んでしまえば、何てことないでしょう。

人間は、所詮は猿であって、鳥ではありません。
たまに鳥の気分を味わうのはいいでしょうが、
それはあくまでも「たまに」の世界にとどめておくべきです。
地べたが揺れたら、鳥のように飛んで逃げるわけにはいきませんから。

つまり、合理的に考えれば、超高層マンションというのは
多忙にして街中に住まざるを得ない人が選択する
多少は「ベター」ではあっても「ベスト」な住まいではないはずです。

その点、英米の連中はすでにわきまえているようです。
まず、相当な理由がない限り街の真ん中には住みたくない、
というのが彼らの支配的な価値観のように思えます。
郊外の、自然あふれる瀟洒な木造住宅、みたいなのが
時間にもお金にも余裕ができた人々の目指す住まいではないでしょうか。
イギリス人などは、特に田舎住まいを好むようです。
新しい安物よりも、古い上質なものを尊びますね、あの人たちは。
それよりも多少短直で単純なアメリカ人にしたところで、
ニューヨークのトランプタワーを嘲笑の的にしています。

ところが、日本では郊外にまでトランプタワーまがいの
超高層マンションが建っています。
「なんで、こんなところにタワーが建つの?」
と不思議でならない物件がたくさん・・・
まあ、企業が儲かるから建てているのですが、
それを支えているのは「高いところに登りたがる○○」な人々なのです。

私の生まれた京都という街も、タワーマンションを毛嫌いしているようです。
京都人というのはイケスカン奴がいる比率が日本一高いと思いますが(笑)、
そういうところだけは妙にしっかりとした感覚を持っています。
「見習え」などとオコガマシイことは申しません。
単純に、自分たちが猿であること思い出せばいいだけです。

参考レポート


2010/1/10 13:46 Comments (2)

2 Comments

読んでいて気持ちのいい内容がめっきり減って残念です。
私もタワーマンションは価値観に合いませんが、そこに価値を感じる人もいる。
メリット、デメリットという書き方をしていますが、結局は大規模、タワー型、への否定ばかりで残念です。

2010/01/13 00:06 | by 匿名

「タワーに住んだこの7年で
5回の飛び降り自殺に遭遇したそうです。」
これは本当の話ですか?

2010/01/11 18:04 | by はる

RSS feed for comments on this post. TrackBack URL


Leave a comment

※こちらへ書き込みいただいたコメントは、承認後全て表示されます。
マンション購入に関する個別相談等こちらへ表示させたくない場合は、
専用フォームからお願いいたします。