○鉄不動産の不思議な開発事業

企業というものは、利潤を追求します。
それがないと、立ち行かなくなって倒産。
しかし、資本主義の我が日本では時に不思議な企業活動があります。
「儲からなくてもいい」という事業。
これがマンション開発だったりするのです。

企業の経理に多少知識のある方だったらご理解いただけると思うのですが、
大企業には「連結決算」という仕組みがあります。
昔は、単に「グループ企業全体でこれだけ儲かり(or損し)ました」という
指標だったのですが、最近ではこれが課税基準になっています。
つまり、親会社と子会社を一体として決算して儲かった分に課税。

アベノミクス3本目の矢は「企業減税」だそうです。
でもこれ、なかなか決まりませんね。
日本の企業への課税は実質40%。かなりお高めです。
シンガポール並みの18%まではいかなくても、
せめて30%くらいにはしようぜ、というのが今の議論。
現状、企業が純利益を出したらその4割を税金で持って行かれるのです。
なんともバカバカしい話です。
これでもまだマシなほうで、昔は5割でした。

私は27歳で法人を設立してケチな広告制作業を始めました。
法人税のことなんか何も知らなかったのですが、
初年度が終わりかけてあわてて経理の専門家に相談。
ざっとウン千万円の粗利益が出ていることが判明。
「単純に計算すると●千■百万円の法人税を払うことになります」
顔面蒼白になりました。マジです。
だって、手元には数百万円のお金しかなかったのです。
まあ、法人税というのはそれだけ凄まじいものです。

さて、マンションの話に戻します。
新築マンションを開発分譲する企業の中には、
異業種である大企業の子会社がたくさんあります。
例えば、住商建物は住友商事の子会社。
大京は、昔は独立専業。いまはオリックスの子会社。
東急不動産は東京急行電鉄(東急)の子会社。
でも、ここは親子の仲が悪いことで有名。
まあ、どうでもいいことですが(笑)。

東急不動産は別にして、電鉄系の不動産子会社は
親会社の「爺捨て山」みたいなところがたくさんあります。
鉄道会社というのは、役所よりも役所っぽいところ。
それは、ビックリしますよ。
本社に行くと「これは昭和40年代の役所か」みたいな社屋だったりして。
また、そこに勤めている社員も小役人っぽいのがたくさん。

電鉄というのは安全運航していれば日銭が入ります。
事業を拡大する必要もないし、新たな企画もほとんど不要。
だからかどうか、社内にいるとアタマがどんどん硬くなります。
固まり過ぎてどうしようもないほど使えなくなった社員がでてきますね。
どうするのか? 不動産子会社に片道切符で出向。

ということで、巷には「○鉄不動産」という会社がいっぱい。
こういう企業が何をするかというと、本社所有の不動産の管理。
それだけだと「やってる感」がないので、外見のいい開発事業。
つまりは、マンションの開発分譲を手掛けるわけです。
もちろん、本社からの「爺捨て出向組」にはそんな芸当はできません。
前面に出るのは専業デベロッパー企業の落ちこぼれ転職組。
彼らにとって、こういうノルマがあってないような
ぬるま湯の子会社デベは、しごく居心地がいいようです。
何といっても、上司は仕事が分かっていないから、自分の言いなり。
好き勝手に事業を進められます。

首都圏で最近よく見られるのは、近畿・東海地方の電鉄子会社が行う
開発事業ででてきた新築マンション。どことはいいませんが(笑)。
彼らはもともと首都圏に土地勘がないので、
自分でマンション事業用地を掘り当てる、みたいな玄人芸は不可能。
用地仕入というのは魑魅魍魎が蠢く世界ですから、素人にはとても無理。
私もごくたまに関わりますので、そのあたりを垣間見ています。

そこで、彼らのお助けマンとして登場するのが、
あの「日本一マンションを知っています」という
ハイセンスなテレビコマーシャルで世間を楽しませてくれる
マンション専業ゼネコンの長谷工コーポレーション。
この会社は、コマーシャル通りマンションのことなら
おそらく「日本一」のノウハウを持っていると私は思います。
少なくとも、マンション用地の仕入れと建築実績は日本一です。

長谷工君は、首都圏に土地勘のない「○鉄不動産」に
「この用地買いませんか? 当社へ00億円で建築施工を発注していただければ00億円でお売りいたします」
と、持ちかけるわけです。
場合によっては、販売代理や管理も子会社で受注。
私が「長谷工プロジェクト」と名付けている事業形態ですね。
「○鉄不動産」のように、長谷工プロジェクトに常連参加する企業を
業界内では「長谷工と愉快な仲間たち」と呼んでいます。

傍で見ていて、多くの長谷工プロジェクトがかなり不健全に思えるのは
「○鉄不動産」たちはほとんど利益を出すことを求められていません。
親会社から「今期は00億円利益を出せ」とは言われていないのです。
これは確認してわけではありませんが、
彼らの事業を眺めているとそう思えます。
なぜ、そんなことが許されるのか?

こういう「○鉄不動産」の場合、親会社からすると
大赤字を喰らわずに「やってる感」が出ていればOK。
親会社は、安全運行さえしていれば黙っていても利益が積み上がる電鉄。
「使えない社員」を追いやった不動産子会社が多少の赤字を出しても、
親会社の利益を減らして税金を軽くすることができます。

そもそも、出向中の「使えない社員」の給料は親会社が
負担しているケースがほとんどなので、
「○鉄不動産」の開発事業を純粋客観的に評価すれば、
大赤字になっている場合がほとんどではないかと想像します。

この業界の不健全なところは、そういう利益を出さなくていい
「○鉄不動産」みたいな会社と、損をしたら即倒産する
純粋なマンションデベロッパーが、同じフィールドで競争しているところ。
実際のところ、「愉快な仲間たち」の中で、専業デベロッパーは大方、
リーマンショック直後の大不況で倒産してしまいました。
名前をあげれば「アゼル」、「ニチモ」、「ゼファー」、
「中央コーポレーション」、「日本綜合地所」・・・
今残っているのは、ほとんどが「○鉄不動産」的な
異業種大企業の連結対象子会社ですね。
これは、かなりイビツな業界構造だと思います。

そういう「○鉄不動産」は今、用地購入費と建築費が高騰したので
やや困っています。事業計画段階で、「利益率5%」なんてのもザラ。
中には「利益出ません」という事業も出てきます。
それでも、彼らは事業を行うのです。何のために?
もちろん、「やってる感」を維持するためです。
利益を出さなくてもいい「○鉄不動産」とは、
資本主義社会ではかなり異質な存在ですね。
まあ、エンドユーザーさんの不利益に直結するわけではないので、
目くじらを立てるほどのことはないと思いますが。

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2014/10/3 16:01 Comments (2)

2 Comments

まろたんさん、こんにちは。

明日は台風ですか。しとしと雨が降っています。
こんな日は外出を控えて、家で昼寝・・・が理想です。

> 人生には三つの坂がある。
> 上り坂と下り坂と「マサカ」。

これ、名言ですね。
この前の知事選挙では「マサカ」を実演していました。
人間、上手に枯れるのは難しいようで・・・
私の周りにも「晩節を汚す」タイプが結構多いです。

住宅はこれから出口の時代。
ニュータウンも湾岸も、どれだけ上手に枯れられるかという問題。
かなり難しいし、多分ほとんど失敗するでしょう。
オリンピックを機に、東京は「下り坂」。
「マサカ」がやってくるといいのですが。

それでは、ごきげんよう。 榊淳司

2014/10/05 16:22 | by Sakaki Atsushi

榊さま。

今日のお話は、なんとなく分かるようで、分かりにくい。

役所で言えば、いわゆる「天下り」先のような存在。
本隊主流から外れた「オヤジ」のための場所が必要で、
ま、年功序列・終身雇用を存続させるため植民地である。
と言う理解で良いのでしょうか?

因みに「介護業界」も、そのような大企業の植民地になっているキライありです。
介護の「か」の字も知らないオヤジが出張って来てゴロゴロされたら、
まったくユーザーとしては、迷惑至極ですけどね。

この国の「介護」に対する認識は、その程度であるということでしょうか。
グチっぽくなりました。(笑)

ま、これから先、
住宅の問題は「入口」より「出口」ですね。
造るときより、壊すとき。
買うときより、売るとき。

一等地の物件以外、築古のマンションなんて手がつけられない、
という「明る過ぎる」将来が待ち受けております。
だから、賢人たるもの、築古になるまえに「売り逃げる」。
そう、うまく行くでしょうか。(笑)

閑話休題。
小泉純一郎が、首相時代に言っていました。

> 人生には三つの坂がある。
> 上り坂と下り坂と「マサカ」。

ふ、深い。(笑)

ごきげんよう。

2014/10/03 20:13 | by まろたん

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